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トップ>ペット法務/16.ペットの里親トラブル




(16)ペットの里親
私たちは地球上で動物と共生しており、ワシントン条約で指摘されるまでもなく、生物多様性(Biodiversity)が人間存在の根源であることを知っています。ペットは人間の都合のみで生きているものではなく、生き物それ自体に生き続ける権利があり、飼主には最後まで責任をもって飼う「終生飼養」の義務があります。
里親制度は、いろんな理由で飼育不可能となったペットたちを希望者に譲る制度です。飼犬が仔犬を産んで全部を育てられない、一人暮らしの高齢者で飼育できなくなった、転勤で連れていけない、から、多頭飼育で生活が破綻した、人間の身勝手で捨てられた、虐待を受けていたなど様々な理由で保護されたペットの保護団体(shelter)があり、彼らが保護しなければ保健所で処分される運命にある動物の引き取り手を探しています。これらのペットたちは飼主との別れを経験していて、心や体に傷を負っている場合もあり、二度とそのようなつらい思いをさせないよう、里親団体は引き受けてくれる里親候補がそれぞれのペットに相応しいかどうか、結構厳しくチェックします。また無責任な飼主に譲渡して不幸な結果を招くことになっては困るからです。中には転売目的の悪質な業者もいるし、稀に虐待する目的で引き取る人間もいるようです。

平成30年度環境省統計によると、全国の犬の引取り件数35,535頭に対し、譲渡は16,694頭(47%)、猫の引取り件数56,404匹に対し、譲渡は25,347匹(47%)と保護団体等の活躍により譲渡数は毎年増加しており、その結果殺処分される犬猫の数は確実に減少しています。里親がペットを引き取る行為は売買ではなく無償譲渡ですが、予防接種やワクチン代、避妊・去勢手術代などを請求するのは自由ですので、里親団体の譲渡条件を確認しておく必要があります。通常トライアル期間があり、家族との相性とか、先住ペットが居る場合は喧嘩しないかなど確かめて、問題なく家族全員で生涯そのペットを飼養できる自信がついてから、正式に譲渡契約を締結する場合が多いようです。
そして引き取りに行くのは里親ですので、場所によっては移動費用が掛かったりします。里親制度は、殺処分されるかもしれなかった尊い命を救うシステムです。ただ生まれてきただけなのに、裁判もなく死刑執行のような気の毒なペットたちを救ってあげたいと、保護団体等のボランティアの方たちが、小さな命のやり取りに尽力しています。


ペットの里親判例

(16-1) 【大阪地判平18.9.6】 122万円
猫の里親を捜すボランティア(あにまるライフ豊中及び個人4人)が、枚方市在住の男(30才代)に対し、男が猫を適切に飼養する意思がなく、他にも複数の猫を譲り受けていた事実があるにも拘わらず、そのような意図や事実を秘して、猫を適切に飼養する等の虚偽の事実を告知して、猫5匹を詐取したとして、贈与契約の取消しによる猫の引渡しを求めると同時に、詐欺を理由とする不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)を請求して裁判に訴えた。1団体と4人は、「譲渡契約書」、「誓約書」に署名させたうえで、別々の時期に夫々の猫を1匹ずつ男に引き渡していたが、ある時、枚方市在住の30代の男が猫の里親を装って多数の猫を引き取り虐待しているというインターネットのブログを見つけ、5人が情報交換し、男を追求したところ、1匹は死んで他はすべて逃げたと言い訳をした。同時期に男は他にも5匹以上の猫を里親として引き取っていることも判明、男の家には猫1匹もいないことから故意に逃がしたか処分したものと裁判で認められ、詐欺により譲渡者に対する損害賠償の責任が認められた。

譲渡者の物的損害は避妊・去勢手術費用、予防接種費用等だが、里親を見つけるまで大切に育てた猫が、もっと幸せになってほしいという希望が踏みにじられ、猫の生死・消息や現在の境遇を案じながら現在に至っている精神的苦痛に対する慰謝料は、譲渡者一人当たり100万円は下らないと主張したところ、一審大阪地裁は一人当たり10万円しか認めず、控訴するに及び、大阪高裁は、各自の慰謝料を20万円とした。動物の愛護及び管理に関する法律§44Tは、「愛護動物をみだりに殺傷した者は、2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処する」とし、§44Vで「愛護動物を遺棄した者は、100万円以下の罰金に処する」と規定しているから、刑事罰に比べても一審の慰謝料一人10万円は、捨て猫の面倒を見てボランティアとして里親を探している善良な市民の動物愛護の精神を理解しない判決であると思う。大阪高裁は、猫虐待男に、慰謝料合計100万円を含め122.5万円の支払いを命じた。

(16-2) 【大阪地判平18.9.6】 55万円
猫の里親を探すボランティア活動をしていた団体から、加害の意思を持って猫を数匹譲り受けた者が、その後ボランティア団体の8名から、総額550万円の慰謝料を請求された。猫を適切に飼育する意思が全くないにもかかわらず、里親として猫を飼育する等虚偽の事実を告げ、猫を詐取したものであり、保護した猫を幸せにしてやりたいというボランティアの純粋な心情が踏みにじられ、深く心を傷つけられたとして、この団体の8名に総額55万円の慰謝料を払うよう命じた。

(16-3) 【東京地判平25.12.27】 愛犬返還請求事件 (返還請求棄却)
Golden Retriever(体重24kg)を飼っている家族A(子は大学生、高校生及び小学生)が、近隣で犬3頭を飼っている夫婦B(成人の子あり)に対して犬を一時的に預けただけなのに、Bが犬を返還しないとして、Aは、Bに対し、寄託契約に基づき犬の引渡しを求めると共に、債務不履行に基づく300万円の損害賠償、又は、Aが犬を横領したとして、共同不法行為に基づく同額の損害賠償、更に、Aがインターネット上のウェブサイトにBの名誉を毀損する内容の記事を掲載したとして、共同不法行為に基づく100万円損害賠償請求をした。実際は、当時、Aは犬を散歩に連れて行くのも大変な家庭の事情で、保健所で処分してもらうか里親に出したいとしてBに贈与したものだが、その後気が変わり、返してほしいと言い出したもの。Bは子に依頼して、インターネット上の里親募集のウェブサイトに犬の写真と記事を載せ、応募してきた里親に犬を渡したところだから、返すことはできない。

裁判で、Aは犬を贈与したのではなく一時的に寄託しただけと主張するも、過去に何度もBに犬の散歩を頼んだり一時預けたりしたことがあり、今回は高校生の子供の病気などで犬を飼育できないと言っていたことから、寄託契約ではなく、贈与契約で履行が完了したとみなすのが相当と判断され、愛犬の返還請求は棄却された。従い、一切の損害賠償も発生せず、名誉棄損も成立しないことが確定した。

(16-4) 【大阪地判平28.9.2】 愛犬返還請求事件(返還請求棄却)
堺市在住の老夫婦(共に75才)が、愛犬chihuahua(1才)を終生飼養するのは無理があると大学生の孫に勧められ、インターネットのペット里親サイトで、里親を募集したところ、一人応募があり、よろしくお願いしますと犬を里親に引き渡した。この時、ベッド、服、散歩紐、血統書等すべて無償で里親に渡し、夫婦は泣きながら犬に永遠の別れを告げた。しかし、孫の勧めに従って犬を手放した婆さんが、犬がいなくなって寂しくなり、爺さんに犬を取り戻してくれと言い出した。二人はタクシーで里親宅に出向き、犬を返してもらえないかと切り出すも、すっかり里親家族になついた犬を手放すはずもなく、交渉は不調に終わった。しばらくして、老夫婦は弁護士同伴で再度里親宅に出向き、犬を売ってくれないかと交渉するも、一億円でも売らないと断られると、弁護士に諭された夫婦は諦めて帰った。しかし、やっぱり諦めきれない老夫婦は、カネ次第で誰の弁護でもするという悪徳弁護士を探し出し、里親のもとに「愛犬を返還せよ」という訴訟を起こした。「平成28年(ワ)84号 愛犬返還請求事件」には「訴額160万円」と記載された原告訴訟代理人弁護士金井塚康弘の判が押してある。返還を求める犬の買値が20万円では弁護士費用の計算がしづらいので、8倍ほどに増やしたのかと思うが、趣旨は「1週間の預託条件であったのに、里親は永久譲渡と勘違いして返還しない、愛犬の返還を求める」というものだ。預託だったと主張すれば取り戻せると悪知恵を授けたのもこの悪徳弁護士だろう。証人喚問された爺さんが「自分は明日から2〜3週間入院するので、1週間ほど試しに里親に出しただけで、譲渡したのではない。」と証言したが、「不自然というほかない」と、嘘が裁判官に見破られた。1週間試しに預託しただけと主張しながら、血統書も里親に渡しているのはなぜか、裁判官に問われて、「そんなもの必要ならいくらでも再発行してもらえる」と爺さんは居直ったが、「一時的に預けるつもりであったのであれば、血統書を里親に渡す必要は全くないと言わざるを得ない」と裁判官に反論された。「原告が被告に本件犬の血統書を渡したということは、本件犬について、原告が被告に譲渡する意思であったことを示すとするのが自然かつ合理的である。」と裁判官は述べ、原告の請求を棄却した。(それでもなお愛犬を取り戻そうと、老夫婦と金井塚弁護士は大阪高裁に控訴したが、途中で爺さんが亡くなったため、同弁護士は控訴を取り下げ、大阪地裁判決が確定した)