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トップ>成年後見制度/1.成年後見制度とは




  (1)成年後見制度が支える老後の安心
  (2)法定成年後見制度の三種類
  (3)任意後見契約(任意後見制度)
  (4)登記事項証明書について



認知症・知的障害・精神障害などによって物事を判断する能力が十分ではない人がいますが、それらの人の権利を守る援助者を選ぶことにより、本人を法律的に支援するのが成年後見制度の趣旨です。認知症高齢者を狙った悪質商法は豊田商事事件等、高価なリフォーム工事をさせる無法な契約事例など世の中に満ち溢れています。モラルのひとかけらも持たない悪質業者の巧言に誘導され不要高額な商品やサービスを契約させられる例が後を絶ちません。成年後見制度は、立場の弱い高齢者や知的障害者の方々を法律的に守り、日本を持続可能な長寿社会にして幸福大国を築くことを目指しています。
介護保険制度と並んで高齢者支援の車の両輪として始まりましたが、成年後見制度は周知されていなかったためか10年経っても利用が介護保険ほど進んでいないのが現状です。

「法定後見制度」というのは、家庭裁判所が、判断能力が不十分になった人の援助者として、成年後見人・保佐人・補助人を選んで、法的な支援体制を整備することです。2000年4月1日からこの制度が発足しました。本制度を利用するためには、家庭裁判所に審判の申立てをします。本人の判断能力に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの制度を利用することができます。
一方で、判断能力が不十分になる前に将来、判断能力が不十分となった場合に備えて、「誰に」「どのような支援をしてもらうか」を予め契約により決めておくのが「任意後見制度」です。

我が国が超高齢社会(65才以上人口比率21%以上)になったのは2007年、今や高齢化率世界一の23%=2,900万人の「高齢者」が住む高齢最先進国です。日本に次いで高齢化率の高い国はドイツ・イタリア(約20%)、スエーデン・ギリシャ・ポルトガル(約18%)。日本は80才以上人口約790万人の内162万人が認知症ですから、5人に1人が認知症。84才以上人口に至っては4人に1人が認知症です。悪徳業者と取引をしながら被害の意識が皆無という高齢者の例は後を絶たちません。成年後見制度はこのような被害を未然に防ぐために作られました。成年後見制度は高齢者の財産を守ります。後見人が財産の管理をするので、認知症になって誰かに騙され危険な契約をしてしまっても、後見人がその契約を取り消すことができるのです。

悪質住宅リフォーム(点検商法)、シロアリ駆除、着物展示販売、金取引、電位治療器販売、アポイントメントセール、次々販売、マルチ商法など高齢者や障害者の被害問題が深刻化しています。高齢者は日中の在宅率が高いので被害に遭う確率も高く、身近に相談する人がいない一人暮らしの人等は、弱者ビジネスから身を守る方法を考えておく必要があります。

岸和田市の人口202,643人(2011年4月1日時点)のうち、65才以上の人口43,712人(22%)
 65才以上人口 
   43,712人
 一人暮らし  11,130人   25% 
 介護が必要な人  8,924人 20%



法定成年後見制度には本人の精神上の障害の程度に応じて成年後見・保佐・補助の三種類がある。
民法 本人 後見人 精神上の障害の程度
§7 成年被後見人 成年後見人 精神上の傷害により事理弁識能力を欠く常況にある
§11 被保佐人 保佐人 精神上の傷害により事理弁識能力が著しく不十分
§15 被補助人 補助人 精神上の傷害により事理弁識能力が不十分

(a) 成年被後見人とは、例えば自分の居場所が分からない、家族の名前が思い出せないなど、およそ判断能力のない人のことですから、基本的に自己の財産の管理・処分ができない人です。それでも日用品のような生活必需品の購入については一人でできる人も結構いますので、日常生活に関する行為以外のすべてについて成年後見人が代理権をもって本人の代わりに法律行為を行います。
本人がいくら悪徳業者から大きな買い物をしても成年後見人が全て取り消す権限を有しています。本人に代わって成年後見人が本人のための法律行為をする訳ですから、間違いが起こらないよう、裁判所が選任する成年後見監督人が成年後見人の行為をチェックすることになります。


(b) 被保佐人とは、日常的な買い物くらいは一人でできるが、不動産/自動車の売買やお金の貸し借りなど重要な財産行為は単独でできず、常に援助を必要とする人のことです。被保佐人が下記民法§13Tの法律行為をするには保佐人の同意が必要となり、同意なく行った行為について保佐人は取消権を行使することができます。それ以外の点についても保佐人の同意なくすることができない法律行為については手続きを経てその内容を登記することにより自由に決めることができます。
本人が悪徳業者から買い物をしても保佐人の同意がないという理由でその売買契約は取消されてしまいます。

■保佐人の同意を要する行為
(民法§13T)
元本を領収し/利用すること
借財/保証をすること
不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
訴訟行為をすること
贈与/和解/仲裁合意をすること
相続の承認/放棄又は遺産の分割をすること
贈与の申込みを拒絶し/遺贈を放棄し/負担付贈与の申込みを承諾し/負担付遺贈を承認すること
新築/改築/増築/大修繕をすること
§602(短期賃貸借)に定める期間を超える賃貸借をすること(たとえば土地なら5年超、建物なら3年超の賃貸借)

たとえば一人暮らしをしていた父親の認知症の症状が進み、日常生活に支障が出てきたので別の市に住む長男と同居することになり、今まで住んでいた父親の土地・建物を売却することにした場合、本人の同意を基に長男が保佐開始の審判の申立てをし、あわせて土地・建物を売却すること及び売却代金を管理することについての代理権付与の審判の申立てをします。家庭裁判所の審理を経て、父親について保佐が開始され、長男が保佐人に選任され土地売却等についての代理権も与えられます。
長男は、家庭裁判所から別途申し立てた居住用不動産の処分についての許可の審判を受けて、父親の自宅を売却することができることになります。


(c) 被補助人とは、軽度の精神障害のために、重要な財産行為を一人でできるか心配で、他人の援助を必要とすることがあるとか、誰かに代わってやってもらった方が安心という人です。被補助人は民法§13Tの法律行為のうち登記をした一部の行為をするには補助人の同意が必要となり、同意なく行った行為について補助人が取消権を行使することができます。(民法§13Tの全ての法律行為に同意権が欲しいという人は被保佐人として登記することになります) 
被保佐人の場合と同様に、一部の法律行為について補助人に代理権を付与することもでき、その際は補助監督人が付きます。

十分に早いタイミングでの現実的対応である補助の制度は、自己決定権の尊重、残存能力の活用の面で大変優れています。
たとえば、訪問販売員から必要のない高価な品物をいくつも購入する母親について娘が補助開始の審判の申立て(本人の同意が必要)をし、あわせて本人が高額な商品を購入することについての同意権付与の審判の申立て(本人の同意が必要)もします。家庭裁判所の審理を経て、娘が補助人に選任され、同意権が与えられると、本人が補助人に断りなく高額な商品を購入してしまった場合でも、補助人がその契約を取消すことができるようになります。


(d) 権限等の比較
後見人 保佐人 補助人
必ず与えられる権限 財産管理についての全般的な代理権及び取消権 民法§13Tについての同意権及び取消権 (なし)
申立てにより与えられる権限 (不要) 民法§13T以外の事項についての同意権及び取消権民法
§13T以外の法律行為についての代理権
民法§13Tの一部についての同意権及び取消権民法
§13T以外の法律行為についての代理権
*取消権=日用品の購入等日常生活に関する行為は対象外(取消権を行使することはできない)
*同意権=本人が一定の行為を行う際に、その内容が本人に不利益でないか検討して、問題がない場合に同意する権限(保佐人・補助人はこの同意のない本人の行為を取消すことができる)

被後見人 被保佐人 被補助人
資格制限 医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う 医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う なし
選挙権 失う あり あり


(e) 事理弁識能力の判定
「事理弁識能力」の判定には、下記のような質問をして本人の判断能力を判定する「改定長谷川式簡易知能評価スケール」(1991年HDS−R)が使われるのが一般的です。(これは認知症の判定にも使われます)
お歳はいくつですか(年齢)
今日は何年の何月何日何曜日ですか(日時の見当識)
私たちが今いる所はどこですか(場所の見当識)
これから言う3つの言葉を言ってみて、後でもう一度言ってもらいます(言葉の記銘)
100から7を順番に引いていってください(計算問題)
これから言う数字を逆から言ってください(数字の逆唱)
3つの言葉(例えば桜・猫・電車)を言ってもらい、後で覚えているか言ってもらう(言葉の遅延再生)
5つの品物を見せてから隠し、それが何だったか言ってもらう(物品記銘)
知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください(言葉の流暢性)
HDS−Rは30点満点で21点以上を正常(認知症でない)と判定する。20点以下が認知症の疑いあり。更に、軽度19.10±5.04、中等度15.43±3.68、やや高度10.23±5.40、非常に高度4.04±2.62と分類され、事理弁識能力の判定に使われている。

(f) 制度利用の手続き
成年被後見人・被保佐人・被補助人と認定してもらうには本人・親族等による申立てにより、家庭裁判所の審判を受けて、裁判所が後見人・保佐人・補助人を指定することになります。その際医師の診断書等も必要です。
これらの後見人・保佐人・補助人の活動を監視する立場の者として、裁判所は必要と認めるときは後見監督人・保佐監督人・補助監督人を選任することができます。後見開始の審判がされると、家庭裁判所の嘱託によって成年被後見人・被保佐人・被補助人と認定された人は東京法務局に登記され、これらの人が悪徳業者と取引をしてもその取引は同じく登記された成年後見人・保佐人・補助人に取り消されてしまいます。

利害関係者に東京法務局発行の登記事項証明書を提示すれば、契約の当事者になることができない人と取引したことが証明され、契約前の原状回復義務が発生するわけです。「後見登記等に関する法律」§10により登記事項証明書を申請することができるのは本人以外に配偶者・4親等内の親族に限られますから個人情報が外部に漏れる心配は一切ありません。(以前の禁治産制度は戸籍に記載されましたがこの制度はもう廃止されています)


(g) 成年後見人の役割・義務
成年後見人の役割は、本人の意思を尊重し、かつ本人の心身の状態や生活状況に配慮しながら、本人に代わって、本人の利益のために、本人の財産を適切に維持・管理したり、必要な契約を結んだりすることによって、本人を保護・支援することです。もちろん保佐人・補助人も、与えられた権限の範囲内で同様の義務を負っています。

そのため、たとえ本人と成年後見人が親族関係にある場合でも、あくまで「他人の財産を預かって管理している」という意識を持って成年後見人の仕事に取り組む必要があります。成年後見人が本人の財産を投機的に運用することや、自らのために使用すること、親族などに贈与・貸付けをすることなどは、原則として認められません。

また、成年後見人が、家庭裁判所の許可なしに、本人の財産から報酬を受けることも認められていません。成年後見人が本人の財産を不適切に管理した場合、成年後見人を解任されるほか、損害賠償請求を受けるなど民事責任を問われたり、業務上横領などの罪で刑事責任を問われたりすることにもなります。成年後見人はその事務について家庭裁判所に報告するなどして、家庭裁判所の指示等を受けます(具体的には裁判所が選任する後見監督人による「後見監督」を受けるわけです)。


■成年後見人の主な業務■
財産目録を作ること:本人の財産の状況などを明らかにして、成年後見人選任後1か月以内に家庭裁判所に財産産目録を出します。
今後の予定を立てること:本人の意向を尊重し、本人にふさわしい暮らし方や支援の仕方を考えて、財産管理や介護、入院などの契約について、今後の計画と収支予定をたて、成年後見人選任後1か月以内に家庭裁判所に提出します。
本人の財産を管理すること:本人の預金通帳などを管理し、収入や支出の記録を残すほか、家などの管理もします。家の修繕などが必要な場合は施工業者等の手配もします。
必要に応じて本人に代わって契約を結ぶこと:介護サービスの利用契約や、施設への入所契約、入院の手続きなどを、本人に代わって行います。
業務の内容を家庭裁判所に報告すること:家庭裁判所に対して、成年後見人として行った仕事の報告をし、必要な指示等を受けます(つまり「後見監督」を受けます)。
その他税務申告、遺産分割協議、不動産の売却等特別の業務をすることもあります。
本人が亡くなられたら2ヶ月以内に遺産を確定し、相続人と家庭裁判所に報告し、残りの財産は相続人に引渡して後見人の仕事は終了します。
原則として、成年後見人の仕事は、本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られており、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人の仕事ではありません。


(h) 成年後見人の任期
成年後見人の任期は、通常、本人が病気などから回復し判断能力を取り戻したときまで、又は亡くなるまで、成年後見人として責任を負うことになります。申立てのきっかけとなった当初の目的(例えば、保険金の受領や遺産分割など)を果たしたら終わりというものではありません。成年後見人を辞任するには,家庭裁判所の許可が必要となり、それも正当な事由がある場合に限られます。但し、補助人については、代理権が付与された特定の法律行為が完了するなどした場合、代理権や同意権を取り消す審判を申し立てるなどして、その仕事を終えることができる場合があります。


(i) 法定後見の申立て費用
申立手数料1件800円(例えば保佐審判、同意権、代理権の場合は3件になり2,400円)
登記手数料 2,600円
診断書(鑑定が必要な場合は、個々の事案により鑑定料は異なる)
その他、戸籍謄本・切手などが必要


(j) 市区町村長による申立て
一人暮らしで身寄りがないなどの事情から、法定成年後見の申立てをすべき親族がいない高齢者の保護を図るために、市区町村長に法定後見開始の審判の申立権が与えられました。本来であればまだ判断能力のある間に任意後見契約を締結しておけばよかったのですが、このような制度の存在を知らずに判断能力が衰えた人を行政の判断で救済できるようにしたものです。



任意後見制度は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、予め自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の希望に沿って、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務を委任する制度です。

「任意後見契約」は、「任意後見契約に関する法律」§3によって必ず公正証書によらなければならず、この中で、本人は受任者に代理権を与えることによって、自己の意思・希望を実現するための支援を得ることができ、自己決定と本人の保護の両方を実現する方法です。認知症になったときに後見人に支援・管理してもらうと便利な内容は民法§13T(保佐人の同意を要する行為)に記載された事項を参考にして、それぞれご自分に必要な内容を契約で自由に定めることができます。


(a) 任意後見制度の目指すところ
65才以上の高齢者の一人暮らしが増えています。国立社会保障・人口問題研究所統計では2010年で65才以上の一人暮らしは465万人(20%)、2015年には562万人(21%)と予想されています。まだ自分に充分判断能力があるうちに判断能力の衰える将来に備えて、自分で特定の後見人を決め、依頼すべき支援の内容を定めておくのが任意後見制度です。
まだ元気なうちに自分の信頼できる人に将来の任意後見人になってもらい、将来万が一認知症になったときはこの人に後見人として自分の財産の管理、介護・療養看護のお手伝いをしてもらって、自分の希望する生活ができるようにと保険をかけておくようなものです。

生命保険は契約期間中に死ぬことが確定していなくても掛け金を払い続けなければなりませんが、任意後見では契約期間中に認知症にならなければその間掛け金を払い続ける必要はありません。万が一認知症になったときから契約に定めた費用を払って後見人に自分の手足となって動いてもらうだけです。
公正証書にした任意後見契約で任意後見人を定めておきながら、生涯認知症にならず、「後見人」制度を利用しないまま元気に大往生されたという例もたくさんあります。かえって、任意後見契約をするような人に限って認知症にならないという統計もあるくらいです。その場合は、任意後見契約書の作成費用が無駄になってしまいますが、不測の事態に陥った時のことを考えて、備えをしておいた方が老後の安心につながるのではないでしょうか。

  65才以上の単独世帯数(全国)    65才以上の単独世帯数(岸和田市) 
2000年 303万人(17.9%)
2005年 386万人(19.7%)
2010年 465万人(20.8%) 11,130人(25.5%)
2015年 562万人(21.2%)

今は元気でも将来自分の判断能力が減退した場合、今までのように自宅で生活したい、望んでいた施設に入りたい、病気になっても困らないようにしておきたい。そのようなときに支援してくれる任意後見人を今から決めておきたいという人に任意後見契約はお勧めです。本人の判断能力が低下した後に、家庭裁判所で本人の任意後見監督人が選任されて初めて任意後見契約の効力が生じます。この手続を申立てることができるのは、本人やその配偶者、任意後見受任者、一定の親族などに限られます。




(b) 高齢者の3原則(1982年デンマーク高齢者政策委員会作成の施策)
自己決定権(自分の人生は自分で決める)
これまでの生活を断絶せず継続した暮らしの維持
自立支援(ケアや補助器具を活用して残された身体機能を使う)


(c)任意後見制度の特徴は本人の主体性重視
本人の意思により自分の後見人を自分で定めることができる
任意後見契約を結んでもすぐに効力が生じるのではなく、将来本人が認知症になったときに、本人・親族などが家庭裁判所に申立てることによって契約が開始する
契約の内容は、当事者の合意によって自由に決めることができる
任意後見人の活動は、家庭裁判所によって後見監督人が選ばれてから始まる
任意後見人がきちんと任務を果たしているか、任意後見監督人がチェックをする
任意後見契約が締結されると、公証人の嘱託により法務局に登記されますが、その登記事項を一般の第三者が見ることはできません
(本人以外に登記事項証明書を申請することができるのは配偶者・一部の親族などに限られています)


(d) 任意後見人に必要な資格
基本的に本人が信頼できる成人であれば法律上制限がないので誰でも何人でも、個人でも法人でもなれます。但し、任意後見人は財産管理などを行うので未成年者や破産者等はなれませんし、法律行為も行うので最低限の法的知識を持っていることは必要です。そのような本人の親族はもとより、司法書士・行政書士などの法律専門職や社会福祉士など福祉の専門職などの選任が一般的です。最終的にはやはり本人との信頼関係を築くことができるかどうかにかかっています。


(e) 任意後見監督人の選任と欠格事由
任意後見契約を締結した後、本人の判断能力が低下すると、本人、親族、受任者のいずれかが家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申立てを行い、監督人が選任されると任意後見契約の効力が発生します。任意後見監督人は、任意後見人の行為に不正がないかどうかをチェックし、その事務に関して家庭裁判所へ定期的に報告します。後見監督人が任意後見人の仕事を監視・監督するので、親族間のあらぬ問題を防止することにもつながります。

従来、法定後見人には自分の子供(成人に限る)や兄弟姉妹等の親族がなることが多かったのですが、親族後見人による使い込み事故が多く発生し、その不正を見抜くべき後見監督人の選任が必須ではないためにこれが最大の問題でした。任意後見人に親族以外の第三者(友人・司法書士・行政書士・社会福祉士など)を選任することでこの問題に対処することができるようになりました。なぜならば任意後見監督人が家庭裁判所に選任されて初めて任意後見人が誕生するからです。(それまで将来の任意後見人として依頼されていた人は「任意後見受任者」といいます)

任意後見監督人については、任意後見人の配偶者や、直系血族及び兄弟姉妹は、欠格事由になり家庭裁判所は選任しません。実務では、行政書士が任意後見人の場合、一般社団法人コスモス成年後見サポートセンターが任意後見監督人に選任される場合が多いようです。(受任者が司法書士の場合は公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートが任意後見監督人に選任されたりする)任意後見監督人は複数選ぶことも可能です。

任意後見契約を結ぶことで、自分の意思に沿って、自分が結んだ契約内容通りに受任者が手足となって動いてくれますので、家族に迷惑をかけたくない人とか自分の将来の備えとしておきたいという人は元気なうちに任意後見制度を利用するとよいでしょう。


(f) 任意後見人の主な業務
財産目録を作ること
今後の予定を立てること
本人の財産を管理すること
必要に応じて本人に代わって契約を結ぶこと
仕事の状況を家庭裁判所に報告すること(「後見監督」を受けること)
などは法定成年後見人の仕事と同じですが、先に締結した任意後見契約に具体的に記載された事項(例えば庭の管理等)については事前に結んだ契約の内容に従い業務として行うことになります。基本的には法律行為に限られるとはいうものの、実際には本人の生活そのものを支えることになるでしょう。但し、特に契約に記載しない限り、病気の介護・入浴の介助・料理・洗濯・部屋の掃除などの事実行為は、一般に任意後見人の仕事ではありません。また、任意後見人には同居する義務はありません。(常に一緒にいなければならないのではない)
ここで問題になるのが民法§858に規定される成年後見人の身上配慮義務です。確かに成年後見人の権限はあくまで契約等の法律行為に関するものに限られ、実際の介護のような事実行為を含みませんが、身上配慮義務を負う後見人は被後見人の「生活」をも支えるべきですから、身上監護面での代行決定を下すことが推奨されていると解釈されています。

■民法§858■(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮義務)
成年後見人は、成年被後見人の生活・療養看護・財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、且、その心身の状態&生活の状況に配慮しなければならない。


(g) 任意後見契約の利用形態
任意後見契約には大別して (A)将来効力型(B)契約移行型の2種類があります。

(A)将来効力型というのは、十分な判断能力のある本人が、当面は何もしてもらわず、もし将来自分が認知症になったら受任者に自分の後見人になってもらうという単なる将来の契約をすることです。これは生涯認知症にならなければ契約が発効することはありません。契約をしただけで受任者はまだ任意後見人ではありませんから、同意権も取消権もありません。
もしも、受任者が近くにいなくて、本人が一人暮らしなので念のため定期的に電話連絡をするとか実際に面会するなどして連絡だけ取ってもらうと安心という人は、同時に「見守り契約」(h)をしておくとより安心度が増すでしょう。

(B) 契約移行型というのは、すぐに任意後見人を必要とするほど判断能力が落ちていないけれども、当面は受任者に代理権を付与して財産管理だけでもしてもらいたいという人が、財産管理の委任契約をしておいて、その後、判断能力が落ちると委任契約が終了し任意後見契約に移行するというものです。
財産管理の委任契約は即有効になりますから受任者は即代理人になりますが、本人の判断能力が落ちて家庭裁判所により任意後見監督人が選任されると受任者は任意後見人になり、本人の財産管理・療養看護を担うことになります。(なお、一人暮らしで親族が近くにいないという人は「死後事務委任契約」も任意で契約しておくと、相続財産確定までの債権債務の整理とか葬儀関係の事務も継続して支援してもらうことができます)

(A) (B)いずれの型でも法定後見に比べて自己決定の観点からはより優れていると言えます。認知症になったときに後見人に管理してもらうと便利な内容は民法§13T(保佐人の同意を要する行為)に記載された事項を参考にして、それぞれご自分に必要な内容を契約で自由に定めることができます。

■保佐人の同意を要する行為■(民法§13T)
元本を領収し/利用すること
借財/保証をすること
不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
訴訟行為をすること
贈与/和解/仲裁合意をすること
相続の承認/放棄又は遺産の分割をすること
贈与の申込みを拒絶し/遺贈を放棄し/負担付贈与の申込みを承諾し/負担付遺贈を承認すること
新築/改築/増築/大修繕をすること
§602(短期賃貸借)に定める期間を超える賃貸借をすること(たとえば土地なら5年超、建物なら3年超の賃貸借)
その他、現在の生活を維持するために必要な自宅や庭、年金・預貯金の管理、税金や公共料金の支払いなども任意後見契約に入れておくと電気ガスを止められたり、税金の滞納などを防ぐこともできます。また一人暮らし高齢者の最大の問題である要介護認定の申請から入院の手続き、介護費用・入院費用の支払い等も任意後見人ができるように契約しておくと便利でしょう。


(h)「見守り契約」
一人暮らしででは、任意後見契約を結んだ後に本人が認知症になっても、それに気付く人がおらず任意後見契約を開始する時期が遅れてしまう可能性があります。任意後見契約が開始しないと本人が不利益を被るかもしれないので、身近に家族や友人など、本人が認知症になったことに気づく人がいないような場合に備えて結んでおく契約です。
自分の信頼できる第三者と「見守り契約」を結んでおき、例えば、見守り契約の受任者に月に1回電話をしてもらったり、年に数回訪問してもらったりする。定期的に本人と受任者で連絡を取り合うことで、本人の健康状態を確認してもらうことができます。万が一、本人が認知症になったときはすぐに家庭裁判所へ任意後見監督人選任の申立てをしてもらえます。任意後見契約書とセットで見守り契約を締結するといいでしょう。


(i) 任意後見契約に必要な書類と費用
本人の印鑑証明、戸籍謄本、住民票3通
受任者の印鑑証明、住民票2通
管理を委託する財産中に不動産が含まれている場合は不動産登記事項証明書
任意後見契約の公証役場費用(合計16,000円まで、内訳は下記の通り)
公証役場基本手数料 11,000円
登記嘱託手数料    1,400円
印紙代  2,600円
他に用紙代・切手代などが必要
公証役場費用の他に行政書士による契約作成手数料がかかります。


(j) 法定後見と任意後見の違い
法定後見制度は本人の判断能力が実際に衰えた後でなければ利用できませんし、本人の判断能力が低下している状態で任意後見制度を利用することもできません。任意後見制度は本人に正常な判断能力があるうちに、自分で自分の将来のために予め何らかの備えをしておきたいという場合に利用するものです。公正証書による契約書を作るのですから、判断能力が低下していては任意後見契約書の作成はできません。
法定後見における後見人を決定するのは家庭裁判所ですが、任意後見契約で後見人を定めるのはあくまで本人です。本人が自分の一番信頼する後見人を選定し、その人にしてほしいことなどを記載した契約書を公正証書にして残しておくので、本人の主体性を尊重することができるという利点があります。
法定後見において後見人を選任してもらうためには配偶者・親族などが家庭裁判所に申立てをして、家庭裁判所が最適と判断する後見人を指名します。任意後見においては、本人の判断能力が衰え一度後見人がその業務を開始すると、裁判所が後見監督人を選任して、後見人に不正がないかチェックさせることになります。

(k) 成年後見制度と信託の組み合わせ
息子(後見人)が認知症の母親(被後見人)の保険金を横領してしまったような事件を防ぐために、後見人ではない第三者(受託者、例えば銀行)が被後見人の財産を預かる制度が信託です。被後見人の財産管理権が受託者に移転するので、後見人が被後見人の財産を勝手に処分することができず、後見人は受託者と共に被後見人のためにそのお金の管理と支払いを行います。また、信託した財産は受託者の資本とは別に管理されるので、受託者が破産しても信託財産は守られます。

最高裁判所の調査によると2010年6月〜2011年3月までの10ヶ月間で後見人による財産の着服等の事故が少なくとも184件発生しており、被害総額は少なくとも18.3億円に上ることが判明している。184件の事故のうち182件は親族後見人によるものであった。最高裁判所はこのような事故をなくすため、法定後見においても親族後見人を選任する前に一旦専門職後見人(弁護士・司法書士・行政書士)をつけ、大口資金については信託銀行と信託契約を締結させ、家裁の管轄下に置き、親族後見人には日常生活に必要な小口資金だけを管理させる方法を検討中だ。


成年後見登記制度は、成年後見人などの権限や任意後見契約の内容などをコンピュータ・システムによって登記し、登記官が登記事項を証明した登記事項証明書を発行することによって登記情報を開示する制度です。法定後見の場合は、後見等開始の審判がされたときに家庭裁判所の嘱託によって登記され、任意後見の場合は任意後見契約の公正証書が作成されたときに公証人からの嘱託によって登記されます。

■登記事項証明書の利用方法
たとえば、成年後見人が、本人に代わって財産を売買するときとか、介護サービス提供契約などを締結するときに、取引相手に対し登記事項の証明書を提示することによって、その権限などを確認してもらうことができます。
事理弁識能力に欠ける人とか事理弁識能力が不十分な人と取引をした悪徳業者に対して、本人の登記事項証明書を見せ、成年後見人等がその契約を正々堂々と取り消すことができるのです。

■登記事項証明書の入手方法
窓口での交付は、大阪府法務局(大阪市中央区谷町2-1-17, 戸籍課 tel 06-6942-9459)など各都道府県の法務局で行っています。免許証・保険証など本人確認のための資料の提示が必要です。


郵送で請求する場合は、日本全国から東京法務局民事行政部後見登録課に依頼します。
〒102-8226 東京都千代田区九段南1-1-15 九段第2合同庁舎
東京法務局民事行政部後見登録課 tel 03-5213-1234

決められた申請書に,300円の登記印紙を貼り,必要な書面(※)、返信用封筒(宛名を書いて、切手を貼ったもの)を同封して上記の住所に郵送すれば1週間くらいで届きます。

※必要な書面=配偶者・親族が請求する場合は戸籍謄本又は抄本、住民票等、代理人が請求する場合は身分証明書(免許証のコピー等)と委任状が必要です。




    成年後見制度/