大阪・岸和田のアミ・インターナショナル 行政書士事務所                                  クーリング・オフ、国際法務、ペット法務はお任せ下さい。
  
  
(3A)犬の吠え声・襲撃等の事故判例


(3-1) 【東京地判平14.2.15】 1,903万円
東京都内の公園で、早朝、飼犬2匹を放し飼いにして遊ばせていた飼主(定年退職の男性)の投げたテニスボールを追って走っていた大型犬(Golden Retriever、体重30kg)が、散歩していた中国人女性(当時45才)に激しく衝突し、その衝撃で女性が投げ飛ばされ転倒、顔面骨折などの重傷を負い、3か月入院、退院後も固形物を食べられないほどの後遺症が残った(後遺障害等級10級)。この女性は、国際交流基金により招聘されて来日していた中国人研究者の妻で、彼女自身も中国の大学で研究者として収入を得ていたが、この後遺障害により将来21年間にわたって労働能力の27%を喪失したとして、逸失利益も含め、裁判で女性の損害を2,139万円と認定した。偶然、女性がかけていた海外旅行傷害保険で236万円支払われていたため、飼主が弁償すべき金額は1,903万円となったのは、飼主にとって幸運であった。飼主は犬の賠償保険に加入していなかったので、損害賠償金が莫大になるにつれ、本当は自分の犬はこの女性にぶつかっていないなどと主張し始めたが、目撃証拠から飼主が賠償責任を負うと判決が下された。


(3-2) 【大阪地判昭51.7.15】 1, 653万円
昭和45年、岸和田市立山直北小学校の10才の女子児童が、当日学校で使用するボンドを買うため、級友の児童と登校途中に文房具店に立ち寄ったところ、繋がれていない店主の犬が激しく吠えながら襲い掛かってきたので、驚いて道路に飛び出し、普通貨物自動車にはねられ重傷を負った。事故の後2か月半入院、その後もほぼ3年にわたって定期的に通院することになる。犬に吠えられて道路に飛び出した事実と、その結果交通事故に遭った事実の間に、相当因果関係があると認められ、飼主の注意義務違反と、トラック運転手の前方注視義務違反・事故発生回避措置義務違反の過失が問われた。特に、犬の飼主はその犬の獰猛なことを熟知していたと認定され、犬を繋いでおかないことにより、このような交通事故の発生を予測し得ないわけではないと判定された。運転手側は、飛び込んできた女児の自爆行為で、自分の過失はないと主張したが否定された。女児は、頭部挫創、頭蓋骨骨折、頭蓋内出血等の障害と顔面に著しい傷を負い、視力低下等の後遺症(後遺障害等級7級)により、労働能力を56%喪失したと認定された。損害賠償金の一部が自賠責保険で支払われたこともあり、残りの1,653万円を犬の飼主とトラック運転手がそれぞれ半額ずつ支払えと判決が出された。女児の障害の逸失利益算定の根拠が昭和48年賃金センサスに基づいているため、このような損害賠償金になったが、平成26年賃金センサスでは平均3.25倍になっており、現在の価値では5,000万円を下らない金額になっているだろう。



(3-3) 【大阪地判平30.3.23】 1,412万円
大阪府高槻市の幅員約4.4mの道路上でランニングをしていた女性(会社員、当時43才)が、前方から突然リードを放れた飼犬(miniature Dachshund)が走ってくるのに気付き、驚いて犬を避けようとしてバランスを崩し転倒して骨折等重傷を負い、救急車で病院に搬送され、合計9日間入院、その後も10カ月以上に渡って合計54日通院する羽目になった。症状固定後も右手関節の機能障害は後遺障害12級6号に相当するとされ、女性は犬の飼主に慰謝料・逸失利益等合計約4,000万円の損害賠償を請求した。飼主の犬が女性を直接襲ったという証拠はないが、本来リードにつないで散歩させるべき犬が、他の犬を見つけて興奮してリードから離れ走っていった結果女性が転倒したのであり、動物の占有者として飼主が民法§718の責任を負うと判定された。一方の時速10km超でランニング中の女性については、飼主側は女性の過失3割と主張したのに対し、裁判官は、カーブの道でも前方を注視して走っていれば避けることができた事故であり、過失相殺1割と判定された。

裁判所が認めた損害賠償額の主なものは、治療費等約101万円、通院慰謝料180万円、後遺障害慰謝料280万円、逸失利益(67才までの所得補填)など合計1,434万円+弁護士費用116万円。ここから女性の過失割合1割を差し引いて1,412.5万円としたが、既に保険(個人賠償責任補償)で127万円が支払われていたので、判決は1,284,5万円となった。本件は飼主家族が個人賠償責任補償特約付き保険に加入していたので、最終的には全額保険会社が支払った。


(3-4) 【大阪地判平14.5.29】 870万円
54才の女性が体長60cmの犬を連れて公園を散歩していたところに、綱につながれていない犬(Labrador Retriever、体長90cm)が近づき、唸られたことから、女性は恐怖を感じ離れようとして、連れていた犬の手綱を引いたところ、バランスを崩して転倒、右太腿骨を折る大けがを負った。骨折とその後の障害が残っているのは、公園で犬を放した飼主に原因があると、3,300万円の損害賠償請求した事案。「犬の管理者が犬を公園・道路などに連出すには、他人に危害を加えないように綱をつけるべきで、原告の転倒の原因をつくった。しかし犬は、唸る以外のことはしておらず、転倒には原告(女性)の手綱の操作を誤った過失もあったが、飼主が散歩させる際の基本的注意義務を怠った過失は小さくない。」と判示し、飼主に約870万円の支払を命じた。


(3-5) 【大阪地判平15.2.17】 657万円
大阪市内の路上で、玄関先から飼主と一緒に出てきた犬(miniature Dachshund、体長約40cm)が走って近づいたのを怖がった女性(79才)が転倒して足を骨折、入院したが、入院先の病院で肺炎などのため死亡した。女性の遺族が犬の飼主に対して、2,400万円の損害賠償請求した事案。犬はリードにつながれていたが、伸縮性のあるリードでは、飼主は伸び縮みしないよう綱を固定すべき注意を怠ったと判定され、骨折と死亡との因果関係については、「骨折によるストレスで抵抗力が弱まり、肺炎になった可能性は否定できない」と認められた。そのうえで、女性に喘息の既往症があったことを考慮し、657万円(損害額の3割)を支払うよう飼主に命じた。


(3-6) 【 横浜地判平13.1.23】 460万円
杖を突いて自宅前の路上に出て、路肩の支柱につかまり立っていた女性(71才)に向かって、散歩中の大型犬(Labrador Retriever、雌、1才5か月)が「ワン」と吠えたので、女性が驚いて転倒し、大腿骨骨折、7か月の通院治療を余儀なくされた。犬にリードを付けて散歩させていた男性は、本来、犬は吠えるものであり、自分に過失はなく、犬が一回吠えた事実と女性の骨折事故の間の因果関係はないと主張した。この女性は、先天的股関節脱臼により、身体障害者等級表4級の人で、通常の人であれば犬が吠えただけで転ぶはずがないと、飼主は女性の過失を指摘した。裁判官は「犬が女性に向かって吠えることは一種の有形力の行使にあたる。飼主には犬がみだりに吠えないように調教する注意義務がある。」と、犬の吠え声と女性の転倒との因果関係を認め、飼主に460万円の支払いを命じた。(うち、21.7万円は治療費として飼主が既に支払っていた) 飼主側は、身体障害者であること自体が過失であり、損害賠償額が過大であると主張したが、裁判官は、「女性の過失を肯定することは、身体障害者に外出を禁じることになる」と輸した。


(3-7) 【大阪地判平18.9.15】 410万円
道幅2mの道路を自転車で通りがかった歯科医師(57才)に、自宅前から、突然、体長1mの猟犬を鎖でつないだ女性が現れ、猟犬に飛びかかられた歯科医師が驚いて転倒し負傷した。飼主は、飼犬が吠えたことは事実だが、歯科医師に飛びかかったり、自転車に触れたこともなく、勝手に転倒しただけなので、相手の過失だと主張したが、裁判では、歯科医師の過失は認められず、飼主が飼犬を自己の支配下に置いていなかった過失があるとされた。狭い道で、突然、体長1mの大型犬に吠えかかられたら、驚いて転倒するのはやむを得ないと、猟犬の吠えながら飛びかかろうとする事実と転倒事故の相当因果関係が認定された。歯科医師は、後遺障害14級に相当すると認められ、飼主には、後遺障害逸失利益、休業損害、慰謝料、弁護士費用等で、合計約410万円の損害賠償が命じられた。(うち約8万円は損害補填の意味で飼主が既に支払済につき、判決額は402万円) 飼犬が直接被害者や自転車に接触していなくても、恐怖から転倒させ負傷させたことについて飼主が責任を負うと認めた判例である。


(3-8) 【東京高判昭56.8.27】 320万円
女性住人(82才)がマンションの自宅に戻ろうとしたところ、背後から飼犬(中型犬・雑種)が近づき接触して、女性が転倒、骨折した事案。敷地内の通路を散歩させていた飼主が、たまたま綱を放した直後の事故で、女性はその後、二度の手術を受けたが歩行困難となった。このマンションは健康的に老後を送ることができると言われている住宅で、老人が多く住み、飼犬が老人に当たれば事故の危険性があることは予見できたと、飼主に320万円の損害賠償を命じた


(3-9) 【東京高判昭56.8.27】 320万円
女性住人(82才)がマンションの自宅に戻ろうとしたところ、背後から飼犬(中型犬・雑種)が近づき接触して、女性が転倒、骨折した事案。敷地内の通路を散歩させていた飼主が、たまたま綱を放した直後の事故で、女性はその後、二度の手術を受けたが歩行困難となった。このマンションは健康的に老後を送ることができると言われている住宅で、老人が多く住み、飼犬が老人に当たれば事故の危険性があることは予見できたと、飼主に320万円の損害賠償を命じた


(3-10) 【大阪地判平15.1.23】 174万円
女性が大阪市内の道路わきの歩道を、飼犬(体重約19kg)をつれて散歩中、対向車線側の歩道を子供達が大型犬(Great Dane・体重約60kg)をつれて散歩させていた。女性側の犬と大型犬が道を隔てて吠えあい、首輪の抜けた大型犬が女性の方に向かって駆け寄ったため、女性は大型犬から逃げようとした飼犬に引っ張られて路上に転倒、重傷を負った。大怪我をした女性は、大型犬の飼主である夫婦に475万円の損害賠償を請求した。大型犬の飼主は、女性側の犬が吠えてきたのが発端であると、相手側の責任を主張したが、裁判所は「事故の原因は、大型犬の首輪がはずれ、女性の犬をめがけて襲い掛かったため」と、首輪がはずれたことによる大型犬の飼主の過失を認定し、174万円の支払を命じた。


(3-11) 【甲府地判平18.8.18】 154万円
飼主が犬2匹連れて公園内を散歩していたところ、犬同士がじゃれあって、そのうちの1匹(Labrador Retriever)が急に走り出し、綱が女性の手をはなれ、公園内で散歩していた女性(63才、パート従業員)に飛びかかってきた(又は、飛びつくような恰好をした)。驚いて避けようとした女性が転倒し、第12胸椎圧迫骨折。入院47日間、通院58日間の大怪我を負った。被害者の大けがを見て驚いた飼主は、裁判で、犬は女性に接触していないとか、女性が虚偽の被害額を申告しているなどと、自己の責任を否定する態度に出た。裁判官は、綱を放すという飼主の過失行為と女性の傷害の間には相当因果関係が認められるとして、飼主に慰謝料など約154万円の損害賠償を命じた。なお、女性は骨粗しょう症で骨折しやすい体質であったため、この素因が骨折に相当程度寄与していると判断されて、損害賠償額は2割減額されて154万円となった(被害者の過失を定めた民法§722U)。


(3-12) 【松江地判昭和48.9.28】 152.5万円
8才の少女が体重40sの大型犬(Collie)に長さ1mのビニールの綱を付けて散歩していて、その少し後ろを少女の母親が歩いていたところ、知人の女性(73才)とすれ違い、母親たちは立ち話を始め、そこに犬が戻って来て母親らに近づき、突然前足を上げたので、犬嫌いの知人女性は咬まれると勘違いし、とっさに後ずさりし逃げようとして足がもつれ転倒、太腿骨折の重傷を負い入院したが、12日後、持病の糖尿病が悪化して死亡した。犬は唸るでもなく、ただ近づいただけだったが、裁判官は、犬の行動と女性の死亡には相当因果関係があると認め、そのうえで、咬まれると誤解した方にも過失があるとして、療養費・葬儀費等につき40%の過失相殺を適用、犬の飼主及び少女の両親に対し、連帯して、被害女性の子5人に総額152.5万円の損害賠償を命じた。8才の少女が40kgもある大きな犬を一人で連れ歩くのを黙認した動物の占有者(飼主は少女の母親の知人)の責任及び少女の両親は親権者として監督義務があったと共に責任が肯定された事件である。


(3-13) 【神戸地判平28.12.26】 104万円
神戸のDog run内で飼犬(miniature Dachshund)を遊ばせていた女性に、他者2名の大型犬(Golden Retriever等、共に体重27kg)2頭が突進してきて女性に衝突、そのはずみで後頭部を強く打って意識を失い救急搬送された事案。女性は大型犬2頭の飼主らが、自分の飼犬から目を離さないように注意してその動向を充分監視していなかったとして民法718条1項に基づき、11カ月間の通院(通院日数は97日)に伴う慰謝料など約141万円の損害賠償を請求した。加害犬らの飼主らは、Dog runではリードを外して自由に犬を走らせることができるのであり、犬が咬みついたわけでもないのだから、転倒して負傷した被害者に8割の過失があると主張したが、裁判官は、犬に声をかけたり制御するなど一切していなかったことから、飼主の管理責任は免れないとした。一方の被害者女性は、犬がリードを外された状態で自由に走り回るなどしていることを前提に,動物である以上不測の事態が生じ得ることを念頭に行動すべきであったと、2割の過失割合が認められた。
裁判で認められた被害者女性の損害額は通院慰謝料110万円など合計127.5万円だが、過失割合2割を差し引いて104万円の支払いが命じられた。


(3-14) 【東京地判平15.1.24 】 82万円
犬の放し飼いが禁止されている公園内で、主婦が自転車専用道を走行中、大型犬(Golden Retriever)が自転車に衝突して、女性が転倒、左足骨折などの大けがをした。飼主は、自転車の女性が自分の飼犬を驚かせたと主張したが、裁判官は、公園内で衝突事故が発生しており、犬に手綱をつけていなかった以上、飼主の責任は免れないとして、82万円の支払を命じた。


(3-15)【東京地判平19.8.9】 46万円
自動二輪を運転中の男性が、勝手口から道路に飛び出した鎖につながれた犬に驚き、犬との衝突を避けようとして道路脇のガードレールに衝突して負傷、バイクも損傷した。犬の飼主は「鎖は短く、犬は道路まで出ていない」と主張したが、裁判官は、突然犬が道路に飛び出してきたため、運転手が驚いてバランスを崩したと、犬の飛び出し事実とバイク衝突事故の因果関係を認め、飼主に治療費、バイクの修理代など約46万円の支払いを命じた。犬の飼主には、勝手口を閉めておくなどの配慮を欠いた過失があると認めたものだ。


(3-16) 【最判昭58.4.1】 31万円
綱をつけていない小型犬(Dachshund, 体長40cm、体高20cm)が道路に出たところを、自転車で通りがかった男児(7才)に近づき、男児がそのわきを通り抜けようとしてハンドルを切り損ね、道路わきお川に転落して顔面を負傷、左眼失明の大怪我を負った。飼主は、小さな愛玩犬が人に危害を加えることも恐怖感を与えることもないと主張、逆に男児が大きめの自転車に乗って操縦になれていないことが事故の原因だと、自己の責任を否定した。裁判官は、「子どもにはどのような種類のものであれ、犬を怖がる者があり、犬が飼主の手を離れれば、本件のような事故の発生することは予測できないことではない。飼主は鎖でつないでおくなど常に自己の支配下に置いておく義務がある。」と、飼主の損害賠償責任を認めた。但し、被害者側にも過失があるとして、損害額を9割減じて、31万円の支払いを命じた。